2020.05.29
D2Cと直販ECの違いとは
D2C(Direct to consumer)ビジネスが盛り上がりを見せている昨今ですが、顧客に自社の商品を届ける通販という仕組みと何がどう異なるのか、D2Cビジネスに必要な仕組みを考察し、ビジネスに親和性のあるプロダクトは商品は何か、そして現状の課題まで掘り下げていきます。
はじめに
直販ECと同一視されがちなDirect to consumer(D2C)ですが、そのビジネスモデルに関しては明確な違いがあると言えます。
最も大きな違いは、「顧客の行動を中心として共感や愛着をもとに顧客発信で拡散していき、ビジネスモデル全体がそのために最適化されている」点だといえるでしょう。
EC直販に関しては、あくまでも普通のECサイトとして購買チャネルを提供しているに過ぎません。
D2Cとは”顧客自身の行動が集客・購買・リピートの呼び水となる特徴を持った、オンライン主軸の販売手法”であると定義できるでしょう。
図1で示す通り、
一般のEC(直販EC)はマーケットプレイスや自社サイト(直販EC)、SNSでそれぞれのデザインや見せ方で顧客に訴求するため、顧客は訴求されたチャネル内で購買行動を完結させます。
一方でD2Cはプロダクトを中心にネットショップ・SNSなどのチャネルをブランディングして顧客に訴求し、ブランドへの共感や愛着を拡散させ、さらなる購買へとつなげていくモデルになっています。
D2Cで採用される仕組み
D2Cと直販ECのモデルの違いは前文で示した通りですが、D2Cのモデルを実現するためには、当然、それに即した”仕組み”が必須です。
仕組みは以下の5つにカテゴライズできます。
- コミュニティの醸成
- テクノロジーによる行動変革
- 愛着を育むパーソナライズ
- データを利用した顧客とのリレーションシップ
- 双方向型コミュニケーション
順に具体事例を交えてみていきましょう。
1.コミュニティの醸成
社会生活を送る中で一人ひとり、大小さまざまコミュニティに所属して生活しているかと思います。コミュニティを持つことで帰属意識が生まれ、人は安心感や信頼を得ることができます。
特定のブランドやプロダクトを好むコミュニティは、関連するSNSでの言及頻度が上がり、コミュニティ全体の自発的な購買を促進していくことになります。
- 事例:Peloton(ペロトン)
- 家庭用エアロバイクの販売とエクササイズの定額動画サービスの提供
- エアロバイクに付属したタッチパネルのコンテンツにはSNS機能があり、全世界のユーザと順位を競ったりエールを送りあったりすることで、エクササイズを通して一体感を感じることができる
2.テクノロジーによる行動変革
普段、店舗に出向いて店員におすすめの商品を聞いたり、靴のサイズが分からないので試着したりといったリアルでの行動をテクノロジーを持ってしてオンライン化することで、顧客に、他にはない驚きと感動を提供します。
AIや3Dスキャン技術を用いて、リアルな顧客体験以上のものを提供していくことで、顧客自身の購買行動にまで影響を与えることが可能です。
- 事例:Glossier(グロッシアー)
- NYのビューティエディターのブログ「Into The Gloss」の人気に火がつき派生したコスメブランド
- サイトに自分の顔写真をUPすることで、どの色の商品が一番合うのかを確認できるマッチング技術を開発し、従来の店舗での顧客体験をオンライン上で実現した
3.愛着を育むパーソナライズ
趣味嗜好や今までどういった商品を購買して、どのような商品に興味を持っているのかなどの情報をもとに、顧客一人ひとりを個別化することで、そのブランドは個人にとって代替のない生活に根ざしたものに進化していきます。
そうすることで、ブランドの思想や理念への個人的な共感や愛着が育まれていくのです。
- 事例:Equal Parts(イコールパーツ)
- 「毎日の料理体験を楽しいものに」するために、より早く簡単に調理が可能になる高品質でおしゃれなキッチンウェアの販売を行う
- 顧客に対して、8週間の料理のオンラインコーチングを無償で提供することで、ブランドコンセプトに興味を持つ料理が得意ではない層のスキルアップを図り、料理の習慣化を狙う(プロダクトを継続利用してもらうための戦略)
4.データを利用した顧客とのリレーションシップ
顧客のニーズや行動様式の変化を素早く察知することで、ブランドの改善点を発見することが可能になります。
そのためには、顧客とのより多くの接点を創出し、より多くのデータを収集しなければなりません。
顧客の行動を理解することで、効率的で有効な販促を可能にします。
- 事例:NIKE(ナイキ)
- 2017年からD2C戦略に注力する世界的スポーツメーカー
- 店舗購入時のアプリ内での精算や、アプリでサイズリクエストをあらかじめ行ってからの来店を可能に
- アプリ限定クーポン発行など、店舗での利便性を高めたアプリ機能追加で、オンラインユーザを店舗(オフライン)にも誘導し、一元化
5.双方向型コミュニケーション
顧客×ブランドの関係性においては、安心感や信頼感の醸成が大切です。
例えば、多種類ある中でいったいどの商品が自分に一番似合うのかアドバイスをもらえたり、購入した後に不具合があった場合の迅速なフォローなどで信頼を得られます。
顧客×顧客の関係性においては、互いに共感/承認欲求を刺激し合うことで主にSNSを介しての口コミが拡散していきます。
- 事例:NIKE(ナイキ)
- アプリ内投票機能を追加して、顧客へ直接的に「どのような商品の使い方をしているか」「どんな商品であれば履いてみたいか」などの質問を行い、ニーズを吸い上げている
5つの仕組みは独立して採用することもできますが、組み合わせることで相乗効果を発揮するため、より多くの仕組みを施策として取り入れたほうがD2Cとしては有利と言えるでしょう。
D2Cに親和性のあるプロダクトとは
では仕組みさえ取り入れれば、どのような商材/プロダクトでも、D2Cとして成功することができるのでしょうか。
やはり、D2Cの向き/不向きは存在すると思われます。
仕組みを採用するにあたって、プロダクトやブランドの特徴が以下の6つの要素と親和性があるかを検討することも大切です。
図2は、5つの仕組みとそれらに影響するプロダクトの6つの要素をまとめたものです。
- 興味や共感を作り出し、誰かにその良さを伝えたいという行動を喚起するには、そのプロダクトの「先進性」と「個性」を武器にした「拡散性」が必要
- 顧客との接点を増やしていくプロダクト要素として手の届く「低単価」であり「高頻度」に購買欲求が発生することが望ましい
- 「意匠性」、つまり凝ったデザイン性を持ったプロダクトは、その用途や使い方についてしばしば顧客へのフォローやアドバイスが必要になり、オンラインと実店舗でのコミュニケーションが有効に機能する
”拡散される先進さと個性を持ち、高頻度の顧客接点をシームレスに創出できるプロダクト”こそがD2Cに向いているプロダクトと言えるでしょう。
6つの要素それぞれを少し噛み砕いてみると、以下となります。
- 拡散性:自発的な顧客の口コミがどれだけ容易にかつわかりやすく伝達され得るか(ペットフード×里親募集メディアなど)
- 先進性:3Dスキャン活用のアパレル販売など、AIやテクノロジーによる驚きと新たな価値観の創出
- 個性:他プロダクトに対する差別化が明確なこと(一般販売されていない日本酒の販売など)
- 低単価:層の厚い一般の顧客がその商材カテゴリで無理なく購買できること
- 高頻度:日常生活の中で一定程度、購入と消費が行われること
- 意匠性:色彩やデザイン性における特徴で、単なる機能に留まらず、個人の好みや興味関心に訴求するもの(インテリア商材、美容やコスメなど)
これらの6つの要素は、組み合わせてより相乗効果が期待できるため、プロダクトの特徴として多く取り入れることでD2Cとして有利な形が作れるでしょう。では果たして6つの要素をプロダクトの特徴として持ち、5つの仕組みを採用すれば着実にビジネスをグロースさせていけるのでしょうか。
直販ECではなく”D2Cだからこそ”の課題とは
直販ECとは異なる手法をとるD2Cですが、D2Cならではの課題も当然ながら存在します。
大きくは、”D2Cの概念そのものの課題”とD2Cの”仕組みの採用における課題”の2つに分けることができます。
D2Cの概念そのものの課題
- 市場規模が小さくなりがち
- ライフスタイルや価値観に訴えかけるプロダクトなため、自ずとターゲットが絞り込まれる
- 市場自体の拡大には、地理的拡大とユーザプールの拡大があり、後者は少なからずD2Cとしての自己を否定する過程となりがち(直販ECに近づいてしまう)
- プロダクト寿命が短くなる恐れ
- 顧客のライフスタイルや価値観は、顧客自身の加齢や社会環境の変化によって目まぐるしく変化してしまうため、顧客ニーズを汲み続け、プロダクトコンセプトに反映する柔軟性が求められる
仕組みの採用・運用における課題
- KPI設定の難しさ
- D2Cを成立させる仕組みは必ずしもそれぞれ直接的な売上に繋がっているわけではなく、エコシステムを成立させるためのKPI設定の見極めが難しい
- コストの高さ
- 行動変革につながるテクノロジー開発には多くの資金が必要
- データ蓄積と利活用には、ある程度の先行投資と、人的な管理が必要
- 顧客との密なコミュニケーション対応には、オンラインではツールなどの導入費用、店舗では人材教育や家賃などが発生
- 優秀なマーケター・データサイエンティストの確保など人材面での投資も必要
おわりに
D2Cを、その仕組みに主軸をおいて、従来のEC直販との違いを述べてまいりました。D2Cは海外の先進事例に国内事例も追随するかたちで盛り上がりを見せています。
しかしながら課題としても挙げたように、複雑な仕組みを理解し、コストをかけて運用していくのは、なかなか骨の折れるモデルと言えそうです。
D2C向けのECサイト構築システムを提供するShopify(ショピファイ)は、アプリ機能追加を前提とした独自のエコシステムを有するため、D2C創業期から成熟期までカバーできるツールとして注目を集めています。
スタートアップD2Cなどは、コストを最小限に抑えつつ、うまく活用することで成長を早めることができるかもしれません。
ただやはりそれでも、長く継続して成長を続けていくには労力とコストの問題は避けて通れません。
D2Cは社会と人々のライフスタイルや価値観を変えていける可能性を持つ、夢のあるビジネスモデルですが、導入には慎重な検討も必要になるでしょう。