Cookie・IDレス環境における、デジタル広告ターゲティング手法と今後について(2021年5月時点) |レポート|㈱enrich the lives

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Cookie・IDレス環境における、デジタル広告ターゲティング手法と今後について(2021年5月時点)

2020年12月に公開した"デジタル広告における、Cookie・IDレスの影響について"レポートの続報となります。前回から変化した点をわかりやすく整理し、これからのデジタル広告ターゲティング手法と、Cookie・IDレス環境におけるデータの重要性について解説します。

はじめに

本サイトでは"デジタル広告における、Cookie・IDレスの影響について"の記事(過去記事参照)を2020年12月に公開しました。デジタル広告におけるターゲティングにフォーカスし、手法の変遷とGoogle・Appleという2大プレーヤーの規制によるCookie・IDレスの流れ、およびそれらの隙間を埋めるソリューションを整理してお伝えしました。

それから約半年、iOSにおいてIDFA(広告識別子)利用のための同意取得機能(ATT(*1))が2021年4月27日に実装されました。2022年に予定されているGoogleのCookie規制の開始も迫ってきており、今後本格的に"Cookie・IDレスの新しい世界"が加速していくでしょう。

本記事では改めて、Google・Appleの規制と代替案、及びその他のソリューションを整理し、個人に関するデータをどのように利用するかという観点で、広告ターゲティングの変化と課題を浮き彫りにしていきます。

Cookie・IDレスによってもたらされる変化は、大きく2点です。

  • デジタル広告の効果を最大化してきたオーディエンスターゲティングと、それに頼っていたコンテンツやサービスの収益性低下への懸念
  • プライバシー規制に伴った、個人に関するデータへの配慮の必要性

特に2つめの、個人に関するデータを誰が・どこまで・どうやって収集していくかということが、広告に携わるあらゆるプレーヤーの重要な課題となっていくでしょう。

また、個人に関するデータを、プライバシーに配慮するかたちで広告配信などへ利活用するために、以下のようなデータの必要性も今まで以上に高まっていくはずです。

  • 1stパーティデータ:会員情報や購入履歴などのデータ
  • ゼロパーティデータ:ユーザに取得の同意を得た個人データ

上記のような、正当な同意を得たユーザの個人データを持たないプレーヤーは、Cookie・IDレスの世界で勝ち続けることは難しくなっていくことが予想されます。
それは広告主も同じで、自社で保有し管理する顧客のデータを拡大することが、より効果的なマーケティングを実現する重要な要素となるでしょう。

(*1)ATT…App Tracking Transparencyの略。アプリによる、他アプリ/Webを横断してのユーザ行動の追跡を制限する機能

 

Google・Appleの規制と代替手段
デジタル広告を取り巻く環境

オーディエンスターゲティングにおいては、多くのプレーヤーが、デジタル広告配信の最適化や広告効果検証のために、Cookieや広告ID(広告識別子)を利用してきました。
Cookieや広告IDには、個人に関する情報(興味関心・行動履歴・閲覧履歴・端末情報など)が紐づけられています。

しかしながら"個人に関する情報をユーザ自らがコントロールできるようにすべき"というプライバシー保護の考え方が世界的に浸透し、GDPRなどの公的規制が検討・実施されはじめました。

加えて各種報道を通じ、一般のユーザの間でも自身の個人的な購買行動やサイト閲覧履歴が第三者によって追跡(トラッキング)されていることが認知されはじめているため、個人に関するデータの取り扱いを誤ると大きな風評被害を生む危険性があります。

それらを受けて、Google・Appleなど大手プラットフォーマーによるCookieや広告ID(広告識別子)の自主規制が進んでいます。(図1参照。赤字は2020年12月から2021年5月までのトピック)


図1:2大プラットフォーマーの規制と代替案


(*2)ITP…AppleがSafariに搭載しているトラッキング防止機能のこと
(*3)API…ソフトウェアの一部を外部に公開し、機能を共有する仕組みのこと
(*4)AAID…GoogleがユーザーのAndroid端末にランダムに割り当てる広告ID(広告識別子)

 

Googleの代替フレームワーク「TURTLEDOVE」が実用化へ

2021年1月に提案された「FLoC」と「FLEDGE」は、ユーザ個人の情報を匿名化した上で、特定の興味関心でグルーピングしターゲティングに活用するものです。ブラウザ上で広告とのマッチングを行うフレームワークとして提唱されていた「TURTLEDOVE」を拡張し実用化した、Cookieの代替手段となります。(図2参照)
機能のアイデア出しには、CriteoなどGoogle以外のプレーヤーも参画しています。


図2:Googleの代替案

  • FLoC(Federated Learning of Cohorts)
    • ブラウザ上で、興味関心をもとにユーザをグルーピング(コホート化)し、グループ単位でターゲティングを行う手法
    • コホートの規模を一定以上にすることで個人の匿名性を保つ
    • コホートは定期的にブラウザ上で再計算される
  • FLEDGE(First Locally-Executed Decision over Groups Experiment)
    • ユーザの興味関心データをブラウザで保存した上で、外部の"信頼できるサーバー"から広告データを受領、ブラウザ上で広告入札を行う
    • サイト訪問履歴に基づいた興味関心データと広告データをマッチングさせることで、リターゲティング(*5)を可能にする機能だが、まだ不明点も多い
    • 2021年後半にテスト開始予定

FLoCについては2021年3月から一部の国で既にテスト運用が始まっていますが、電子フロンティア財団や、ブラウザベンダーなどから批判的な意見が出されています。

例えば、ユーザをコホートに分けることで社会的弱者グループへの差別が助長される、他のトラッキング技術と組み合わせることで、より強固なユーザデータになり得る、Googleによるデータの独占化が進む、といった批判です。

(*5)リターゲティング…一度でも自社サイト/アプリに訪問したことがあるユーザに対して広告を配信する手法

 

AppleのATT実装とSKAdNetwork

2021年4月27日にアップデートされたiOS14.5において、ATT(*1)が実装され、IDFA(広告識別子)の明示的な同意(オプトイン)が必須となりました。

ユーザのiOS14.5verへ移行状況や、同意に至りやすい同意取得画面の出し方など、徐々に明らかになってきたこともありますが、広告収益への影響に関してはまだ断定的な結果は出ていません。

Appleが用意した広告効果計測の代替案であるSKAdNetworkに関してはプライバシーへの配慮から、広告成果のリアルタイム計測が不可であったり、リターゲティングがほぼ不可能であったりと、制約の多さが懸念されています。
そのため、第三者からいくつかの補足ソリューションが提案されています。

  • Googleのソリューション:アトリビューション計測において、SKAdNetworkでは確認できなかったコンバージョンを、計測できたコンバージョンとの差異や、類似したデータのコンバージョンから、予測モデリングを行いレポーティング
  • MMP(*6)のソリューション:ユーザは特定せず、機械学習によって統計的に"どのメディアからインストールがもたらされたか"を推定しレポーティング

規制を開始する一方で、Appleは今後、広告事業を拡大する方針を明らかにしています。実際に2021年5月に、App Storeでアプリを訴求するための新たな広告枠(ユーザがアプリ検索をしなくても表示される広告枠)が導入されています。

Appleが提供する広告枠に関しては、SKAdNetworkよりも多くユーザのデータが得られます。これにより広告予算が最適化しやすくなるため、広告主の予算配分が変わる可能性があります。

(*1)ATT…App Tracking Transparencyの略。アプリによる、他アプリ/Webを横断してのユーザ行動の追跡を制限する機能
(*6)MMP…モバイルトラッキングパートナー。広告効果の測定を支援する事業者。

 

これからの広告ターゲティングに必要な2つのアプローチ

既存のデジタル広告ターゲティングの変化に直面したプレーヤーは、以下の2つのアプローチから広告効果の最大化を図っていくことになるでしょう。

  • プライバシー保護とオーディエンスターゲティングの両立
  • 既存の広告ターゲティングに依存しない試みの確立
プライバシー保護とオーディエンスターゲティング(過去記事参照)の両立

プライバシー保護のレベル感とオーディエンスターゲティングの精度は、トレードオフの関係で、「妥協点」をどこにするかが重要です。

妥協点を探る上で難しいところは、基準となる軸が定まっていないことです。

  • 「プライバシー」に対する解釈は人や国、企業によって異なる
  • 「ターゲティング」と言っても、企業によって重要視するKPIが異なる(広告の目的がクリックであったり、資料請求などのアクションであったりと異なる)

Googleの最新の代替案「FLoC」「FLEDGE」もプライバシー保護とオーディエンスターゲティングの両立を目指したものですが、前述したように、早くもプライバシーの観点からの批判を受けています。
一方でGoogle以外のプレーヤーからGoogleとは異なったアプローチをとるソリューションが提案/提供されています。以下、それらについてもみていきましょう。


①共通IDソリューション

規制の対象である3rdParty Cookie(第三者が発行したCookie)を使わず、1stパーティデータ(メディアが持つ顧客情報。プラットフォーマーの規制の範囲外)を利用して、連携しているプレーヤー間で機能する共通IDを生成することで、オーディエンスターゲティングを実現する仕組みです。

現在主流であるアプローチは大まかに分けて2通りです。(図3参照)

  • メールアドレスなどのログイン情報を利用する方法
    • The Trade DeskのUnified ID2.0
    • LiveRampのIdentityLink(Unified ID2.0とも連携可能)
  • 1stParty Cookieを利用し推定マッチングを行う方法
    • ID5のUniversal ID


図3:共通IDソリューションの2つのアプローチ




共通IDソリューションの懸念点は、以下が考えられます。

  • 複数のIDソリューション対応に伴うサイト遅延の可能性
  • データ活用のための同意の取得

また、メールアドレスでのログイン情報は、使い捨てメールアドレスを生成するツールなどもあるため、その有効性については疑問視される向きもあります。本記事執筆時点では、共通IDソリューションはまだ実用化テストの段階です。


②サーバーサイド計測

過去記事では、Googleタグマネージャーの機能「サーバサイドタグ 」を紹介しました。明言されてはいませんが、サーバ側には規制が及ばないAppleのITP規制への対応策になります。

また、Facebookが提唱する「Conversions API」を利用してオーディエンスターゲティングを実現する方法もあります。これは、サーバ間通信で、ユーザのメールアドレスなどのデータをハッシュ化(*7)してFacebookに送り、Facebook上で登録されているメールアドレスなどとマッチングする手法です。

ただ、「サーバサイドタグ 」も「Conversions API」も、特定のプラットフォーム上でのターゲティングに限定され、追加のクラウド利用料が必要であったり、難度の高いサーバ設定が必要といったデメリットがあります。

(*7)ハッシュ化…復元できない別の値に変換すること。

 

既存の広告ターゲティングに依存しない試みの確立

①コンテキストターゲティング(過去記事参照
個人に関連する情報は使わず、閲覧されているコンテンツと広告内容との親和性の度合いを機械学習によって判定し、配信に活用する手法です。

広告配信側においては、プライバシーへの抵触が低い半面、マッチング精度は技術力に拠る部分が大きくなります。ただし、本アプローチには近年、新たな事業者の参入も相次いでおり、競争によって精度向上が期待できるかもしれません。

メディア側においては、配信側に選ばれるために、PVやUUの規模に加え、コンテンツの質の向上が重要な要素となるでしょう。例えばユーザ増やコンテンツ内での回遊性向上のために類似コンテンツ同士の連携や、ユーザの満足度を高めるためのUXの改善などです。
優良な固定ユーザが増えることでコンテンツの価値も必然的に向上します。ユーザのニーズを的確に掴み、優良顧客化するためには、会員情報や購入履歴などのデータ(1stパーティデータ)の収集も必要になってくるでしょう。


②サブスクリプション化(有料化)

広告領域から外れますが、メディアとしては、広告収入に代わる新たな収益源を検討する道もあります。例えば、コンテンツのサブスクリプション化や、サービスの有料化です。

メディアがコンテンツやサービスを無料で提供できているのは、広告収益でコストを埋め合わせているからです。しかし、そのことを意識しているユーザはまだ決して多くない状況のため、有料化はハードルが高いかもしれません。

コンテキストターゲティングと同様に、コンテンツの価値向上を目指すことで、可能になる試みと言えるでしょう。

 

おわりに

"Cookie・IDレスの新しい世界"でプライバシー規制に対応できる特効薬のようなソリューションは現時点で提案されていません。

  • WebではGoogleの「FLoC」と「FLEDGE」が新たなターゲティング手法を提案するもプライバシー観点から批判あり
  • アプリではAppleのIDFA規制が実施され、影響はこれから本格化
  • 共通IDソリューションは実用化テスト段階
  • サーバサイド計測は範囲が限定的でコスト高
  • コンテキストターゲティングのマッチング精度は技術力に左右され、まだ未知数

また、個人に関するデータの取り扱いに対しては、国やプラットフォーマー、プレーヤーごとに見解が異なります。誰が・どこまで・どうやって、個人に関するデータを収集していくかの標準化は進んでいません。

  • Googleの「FLoC」は、ブラウザ上でユーザをコホートにグルーピングし匿名化
  • Appleはデータ利用の主体をユーザへ帰属させる意図のもと、直接的なトラッキングを停止
  • 共通IDソリューションは、ユーザの同意取得を前提に、個人データを暗号化し匿名化

Cookie・IDレスに対応するソリューションは未確定であり、プライバシーに関する見解も標準化されていない現状で、確実なものは"正当な手段において取得された個人に関するデータ"です。その重要性は今後さらに増していくでしょう。