2023.07.26
【後編】Cookie・ID代替ソリューションの特徴とデジタル広告の最適解について(2023年7月時点)
2021年5月に公開した"Cookie・IDレス環境における、デジタル広告ターゲティング手法と今後について"レポートの続報の後編です。
『後編』では、Google・Apple以外の代替ソリューションについて前回から変化した点にフォーカスし解説します。
はじめに
一長一短の各ソリューションから適切な選択を行うため、正しいターゲット理解を
【前編】ではGoogle・Appleという2大プレーヤーのCookie規制によるCookie・IDレスの流れを追い、最新の動向をまとめました。【後編】はGoogle・Apple以外のプレーヤーによるCookie・IDレス代替ソリューションを整理していきます。
【前編】レポート後、23年4月にはSafari16.4がアップデートされ、Cookieに関する規制がさらに進みました。詳細はサーバーサイド計測の項で後述します。
また同じく4月に、Googleの「FLEDGE」の名称が「Protected Audience API」(オーディエンスのデータをより保護するという面を強調)へ変更されました。「FLEGDE」は2022年8月からGoogleが一部トラフィックを対象にした初期テストを開始したばかりで、徐々に機能追加されている段階です。大幅な仕様変更ではなく、追加になった機能に合わせた名称変更といえるでしょう。
Cookie規制とプライバシー尊重の潮流がより濃くなっていく中で、自社に合うデジタルターゲティング手法の選択が重要になっています。これから改めて整理する各ソリューションはターゲティング精度という面から、大きく分けて以下のような2つの特徴があります。
- ターゲティング精度は高いが、その範囲が限定的なもの
- 共通IDソリューション
- The Trade DeskのUnified ID2.0
- LiveRampのRampID™
- ID5のUniversal ID
- インティメート・マージャーの「IM-UID」
- サーバサイド計測
- GoogleのサーバサイドGTM
- metaのConversionsAPI
- 共通IDソリューション
- ターゲティング精度は低いが、その範囲が広範なもの
- Google・Appleの代替ソリューション
- GoogleのPrivacy Sandbox(FLEDGE)
- AppleのSKAdNetwork
- コンテキストターゲティング
- GumGumの「Verity™」
- マイクロアドのUNIVERSE Ads
- BI.Garageと有力メディアが運営する「コンテンツメディアコンソーシアム」
- Google・Appleの代替ソリューション
【前編】で詳細を説明したGoogleのPrivacySandbox、AppleのSKAdNetworkは汎用的なソリューションです。ただプライバシー保護を大きく打ち出した仕様のため、ターゲティング精度としてはやや低い位置付けとなります。
自社のターゲットを正しく理解し、最も効果的にリーチできるような代替ソリューションを、複数選択していくことが最善といえるでしょう。
その他の広告ターゲティング手法の特徴と潮流
リターゲティングが可能な共通IDソリューションが最有力か
リターゲティングの可否が、各ソリューションのターゲティング精度に密接に関わります。当然、リターゲティングを可能とするソリューションの方がターゲティング精度が高くなります。
中でも共通IDソリューションの精度の高さは注目です。各ソリューションに参画する企業も直近で増えているため、現時点では最も有力な代替ソリューションといえるでしょう。
サーバサイド計測とGoogleの「FLEDGE※」もリターゲティングが可能といえます。ただし、サーバサイド計測は特定のプラットフォーム上でのターゲティングに限定されるのでリーチが狭い点がデメリットです。
また「FLEDGE」に関しては、PrivacySandboxの位置付けの中でリターゲティング機能を担うとされますが、まだ開発期間中となります。
AppleのSKAdNetworkはリターゲティング非サポートのソリューションです。
またコンテキスト広告はそもそもサイトに訪問したユーザ情報を利用しないため、リターゲティング機能を有しないソリューションとなります。
各ソリューションも台頭してから一定期間が過ぎ、明らかになった点や進化している点もありますので最新動向を追って見ていきましょう。
※「FLEDGE」は名称変更されましたが、後編では、わかりやすさを重視して前編と同じ呼称「FLEDGE」としています。
図1:ターゲティング精度
共通IDソリューション
事業者間の連携は進みつつあるが、ユーザの同意取得の向上が焦点
過去記事で、共通IDソリューションには大まかに分けて2通りのアプローチがあるとお伝えしました。現段階でも以下の2つが主流です。
- メールアドレスや電話番号などの確定的な情報でIDを生成するアプローチ(ログイン情報を取得)
- IPアドレスやブラウザなどの情報から類推したIDを生成するアプローチ(IPアドレス等を取得)
ターゲティング精度においては、ログイン情報を取得したIDの方が精度としては高くなります。しかしながら、使い捨てのメールアドレスを生成するツールや機能(iOS)などもあるため、一概に確実なターゲティング方法とはいえない面もあります。
また共通IDソリューションのターゲティングにおいてはどちらのアプローチであっても前提条件があります。
- ユーザの同意取得が必要
- IDは連携している事業者間でのみ有効
これらの前提条件により、ターゲティング範囲は最初から絞られており、その点が、他ソリューションと比べてデメリットといえるでしょう。
図2:各共通IDソリューションの特徴
- Unified ID2.0とRampIDはメールアドレスなどの確定情報を利用するログイン認証方式でIDを生成可能で、相互に連携済み
- ID5は、パブリッシャーサイトで同意取得したユーザ情報(IPアドレスやブラウザ情報)をメインに、取得できた場合はメールアドレスなどの確定情報も掛け合わせてIDを生成
サーバーサイド計測
規制が及びつつあり、将来性には疑問
過去記事でも説明した通り、Googleの「サーバサイドGTM」・Metaの「ConversionsAPI」などは、Cookie規制に影響を受けにくいターゲティングが可能です。ただし特定のプラットフォーム上でのターゲティングに限定されるのが大きなデメリットです。また、追加のクラウド利用料が必要であったり、難度の高いサーバ設定が必要といったデメリットもあります。
はじめに少し触れた通りSafari16.4のアップデート(23年4月)により、サーバサイドで生成されたCookie(3rdParty Cookieを1stParty Cookieとして処理したもの)の有効期限が最大7日間に制限されるようになりました。実装方法によっては「サーバサイドGTM」も規制の対象となります。回避するにはより高難度のサーバ設定が必要になり、費用対効果の面でデメリットとなりそうです。
Appleの規制はサーバサイドにも及びつつあり、将来的にも安定した代替手段として検討するのは難しいかもしれません。
サーバサイド計測は特定のプラットフォームでのターゲティングを強化したい場合は有効な代替手段ではあるので、選択する場合は自社のデジタル広告の方向性に合致するかが焦点になります。
Google・Appleの代替ソリューション
プライバシー保護を重視したソリューションでどこまでターゲティング精度を向上できるか
Google「PrivacySandbox」の新しい提案「TopicsAPI」は特定のIDを保有していないため、プライバシー保護の観点からは有用なソリューションです。Appleが用意した広告効果計測の代替案であるSKAdNetworkも同様に、プライバシー保護を重要視した代替ソリューションです。
これらはユーザ個人を特定しないことを徹底したソリューションのため、ターゲティング精度は、①共通IDソリューション、②サーバーサイド計測よりも低くなります。逆に、利用するプラットフォームなどの制限がないためターゲット範囲の広いソリューションとなり得ます。
AppleのSKAdNetworkはリターゲティング測定を非サポートとしているので、リターゲティングには不向きな代替ソリューションとなります。
「FLEDGE」は機能の全容が定まっていませんが、リターゲティングを目的としたソリューションです。その点でSKAdNetworkよりもターゲティング精度は高くなると見込まれます。
コンテキストターゲティング
AI技術の発展によりターゲティング精度向上の可能性も
過去記事の通り、プライバシーへの抵触が低い半面、マッチング精度は技術力に拠る部分が大きくなります。現在はさまざまな企業による参入があり、企業間の競争や文脈を読み取るAIの技術革新によって、よりマッチング精度が高いソリューションへと変貌する可能性はありそうです。
また配信メディア側の体制も、メディア同士の連携などで徐々に整いつつあります。集英社など有力メディアでは、感性ターゲティング広告サービス「Trig’s」(コンテンツを閲覧した人の感情や感性をAIで推測し関連情報や関連広告を表示する)との連携など先進的な取り組みも見られます。
以下は特徴的ないくつかのソリューションです。
- GumGumの「Verity™」:独自のコンテキスト解析エンジン。テキスト・画像・動画・音声など、利用可能なすべてのコンテキストシグナルを考慮する広告配信を行うことが可能。
- マイクロアドのUNIVERSE Ads:「UNIVERSE Ads」の新たな広告手法の1つとして22年2月からコンテクスチュアルターゲティングを開始。独自AIによって配信先のコンテンツカテゴリを広告配信前に分析(5つの階層構造から形成される約3,000のコンテンツカテゴリ)。配信側は、最適なカテゴリを選定して広告配信することが可能。
- BI.Garageと有力メディアが運営する「コンテンツメディアコンソーシアム」:ソリューション集英社や朝日新聞社など、日本国内30媒体社が運営するプレミアムメディアが参画。質の高いコンテンツへの広告配信が可能。23年1月にはTBSと共同通信社が新たに参画し、優良なコンテンツをさらに拡大中。
おわりに
いよいよ迫る24年末のCookieレスの世界では、顧客理解とデータ利活用が鍵
24年の1月からは、「Crome」ブラウザのユーザーの1%で3rdParty Cookieが利用できなくなる予定となっています。徐々に範囲を広げ、24年末までにグローバルで完全に3rdParty Cookieは廃止されます。
Googleは「PrivacySandbox」において、プライバシーに最大限配慮しながらも、引き続き効率的な広告ターゲティングを可能にしていくと表明しています。ですが現在「TopicsAPI」や「FLEDGE」は検証中のため、確実とはいえません。
やはり顧客情報などのデータ(1stパーティデータ)やユーザに同意を得て取得した個人データ(ゼロパーティデータ)を豊富に持ち、利活用できるプレイヤーが、Cookieレス・IDレスの広告ターゲティングにおいては優位となるでしょう。またデータを利活用することでより深い顧客理解へとつながり、ターゲティング精度の向上が見込まれます。
プライバシーに配慮したかたちでの顧客データの収集と蓄積は急務です。
Cookieレス・IDレスの世界では、さまざまなターゲティング手法が競合しています。自社の顧客・ターゲットと最も親和性の高いソリューションを選択したり組み合わせたりすることで、効果の最大化を狙っていくことが最適解といえるでしょう。